東京高等裁判所 平成12年(行ケ)21号 判決 2000年11月29日
原告
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
被告
オウ・ボン・パン・カンパニー・インコーポレーテッド
代表者
【C】
訴訟代理人弁護士
鈴木修
訴訟復代理人弁護士
伊藤玲子
訴訟代理人弁理士
【D】
主文
特許庁が平成8年審判第14803号事件について平成11年11月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文第1、2項と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、「オーボンパン」の片仮名と「AU BON PAIN」の欧文字とを上下2段に書して成り、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)の区分による第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品」とする登録第1943729号商標(昭和59年11月27日登録出願、昭和62年3月27日設定登録、平成9年3月27日更新登録出願、同年10月24日更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成8年9月2日、本件商標につき不使用に基づく登録取消しの審判を請求し、その予告登録は、同月24日(以下「予告登録日」という。)にされた。
特許庁は、同請求を平成8年審判第14803号事件として審理した結果、平成11年11月12日、「登録第1943729号商標の登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は、同年12月18日、原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が、予告登録日前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかの者によって、その指定商品についての使用をされていたものと認められないから、本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により取り消されるべきであるというものである。
第3原告主張の審決取消事由
本件商標は、予告登録日から3年以内である平成6年8月から平成7年2月までの間、東京都豊島区<以下略>所在の店舗(以下「本件店舗」という。)において、通常使用権者であるエービーピージャパン株式会社(以下「エービーピー社」という。)により、その指定商品中の「サンドイッチ」についての使用をされていたものであり(取消事由)、審決は、この点において認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 通常使用権者
審決は、「『エービーピー社の履歴事項全部証明書』・・・によっては、エービーピー社が商標権者から通常使用権を許諾されていることを何ら立証するものではない。」(審決書12頁13行目~16行目)とするが、商標権者である原告とエービーピー社の両名による確認書(甲第3号証)によれば、原告からエービーピー社に対し、使用商品を全範囲とし、使用地域を全範囲として、使用期間を定めない通常使用権が許諾されたことは明らかである。
2 本件商標の使用
(1) 審決は、「『商品のパッケージ(包装用箱)の写真及び一部コピー』、『紙製皿の写真』、『商品の包装用袋の写真』、『商品の包装用手提げ袋の写真』、『紙製コップ、カップの写真』等・・・に表示されている撮影日は、1996年12月3日であると認められ、該写真が撮影されたのは、結局、本件審判の請求以後であるから、本件商標の使用を証明する証拠として採用できない。」(審決書13頁15行目~25行目)とする。
しかしながら、貨物の輸入に関する取引書類(甲第9号証の1~12)に記載された積載機名及び積載番号は、梱包用袋(小)及び同段ボール箱の写真(甲第5号証の2)、梱包用袋(中大)及び同段ボール箱の写真(甲第6号証の1)並びに包装用手提げ袋及び同段ボール箱の写真(甲第8号証の1)に写っているものと同一であり、その輸入航空会社の請求書(甲第9号証の1、2)の日付は、「1994年12月12日」となっている。また、積み荷貨物の明細書(甲第9号証の10)には、包装用袋(甲第5号証の1~3)が「BAGS WAX 4 LB」として、同じく包装用袋(甲第6号証の1、2)が「BAGS WAX 6 LB」及び「BAGS WAX 12 LB」として、包装用箱(甲第7号証の1)が「BOX CROISSANT 10,5×6×3, 75 WHITE」として、包装用手提げ袋(甲第8号証の1、2)が「BAGS POLY T-SHIRT 12×23」としてそれぞれ記載されている。さらに、上記取引書類と同様の貨物の輸入に関する取引書類(甲第10号証の1~18、甲第11号証の1~5)によれば、エービーピー社が継続して同種の包装用パッケージを輸入していたことが明らかである。
(2) 審決は、「セットメニューの売り上げ明細の写し・・は、誰が、いつ、どのような目的で作成したものであるか、客観的に証明されているものではない。
又、・・・セットメニューには、『チキンタラゴンサラダサンド』、『ターキーサンド』、『ハムサンド』と記載されているが、これが、商品として販売される『サンドイッチ』なのか、或いは店内で提供されている『サンドイッチ』であるのか不明である。」(審決書12頁2行目~11行目)、「『レストラン オーボンパンau bon pain』のパンフレット及びメニュー・・・は、『クロワッサンサンド・セット』及び『フランスパンサンド・セット』等が、該レストランにおいて提供されていることを表しているにすぎないものである。・・・単に皿に盛られたサンドイッチ等の写真又はサンドイッチに用いられる焼く前の冷凍状態にあるパンの写真であって、これらは、何ら本件商標の使用を立証するものではない。・・・、『商品のパッケージ(包装用箱)の写真及び一部コピー』、『紙製皿の写真』、『商品の包装用袋の写真』、『商品の包装用手提げ袋の写真』、『紙製コップ、カップの写真』等・・・は、汎用性を有し、特に、『サンドイッチ』だけに使用されるものではないから、本件商標の使用を立証するものではない」(審決書13頁1行目~21行目)とするが、エービーピー社は、サンドイッチを持ち帰り用の商品として販売し、その際、本件商標の付された包装用袋(甲第5号証の3)、包装用箱(甲第7号証の2)及び包装用手提げ袋(甲第8号証の2)を使用していたものである。
第4被告の反論
1 通常使用権について
原告は、本件審判において、エービーピー社の通常使用権を立証する証拠を提出することができず、原告とエービーピー社との確認書(甲第3号証)は、本件訴訟の第1回口頭弁論期日が開かれた平成12年6月14日の直前である同月9日に作成されたものである。原告とエービーピー社間において通常使用権の許諾について契約書も作成されておらず、また、エービーピー社が飲食店の営業許可を受けていないことからも、上記通常使用権の許諾の事実は認め難い。
2 本件商標の使用について
(1) 本件商標を付した包装用袋等は、航空貨物運送状(甲第9号証の8、9)によれば、ボストン空港から東京に向けて発送され、東京に到着したことは認められるが、これらが輸入されたとすれば当然あるはずの輸入(納税)申告書控え、蔵(移)入承認申請控え等の書類が原告から提出されていない。上記包装用袋等には、送り返すか又は廃棄することを目的とする「回送仕分け」がされており、何らかの理由で輸入されず、通関手続をしないまま、他国へ送られたか、又は送り主に返送されたものと推測される。
貨物の輸入に関する取引書類(甲第10号証1~18)の輸入許可を受けた物品の中に、原告主張の包装用袋等は存在しておらず、また、同様の取引書類(甲第11号証の1~5)の輸入先はエービーピー社ではないから、これらの証拠により同社が継続して同種の包装用パッケージを輸入していたと認めることはできない。
(2) サンドイッチの販売
エービーピー社の成田空港検疫所長宛確認願(甲第10号証の6)には、同社がサンドイッチの製造に利用できる冷凍食品類を販売用又は営業上使用の目的ではなく試験用として輸入する旨の記載があり、このことは、サンドイッチ類を販売していたとする原告の主張と矛盾する。
一般的に、売上明細書(写し)(甲第12号証)に記載されている「セットメニュー」という表現は、飲食店でのメニューに使用されるものであり、テイクアウトなどの品目の表記としては極めて異例なものであるから、セットメニューの売上明細は、飲食店の売上を記載した可能性が大きい。
第5当裁判所の判断
1 取消事由(本件商標の使用)について
(1) 通常使用権者について
履歴事項全部証明書(甲第13号証)には、平成7年4月18日当時のエービーピー社の本店所在地として東京都豊島区<以下略>、会社の目的としてフランチャイズシステムによる飲食店の経営等との記載があり、東京都豊島区池袋保健所長の原告に対する営業許可書(甲第14号証の1)には、原告が、平成4年9月21日~平成8年9月30日の間、東京都豊島区<以下略>において、「オーボンパン」の名称で飲食店の営業を行うことについて、上記保健所長から営業許可を受けたとの記載がある。これらの証拠によれば、エービーピー社は、原告と何らかの営業上の関係を有し、上記の場所において「オーボンパン」の名称で本件店舗の営業を行うことについて原告から権限を与えられ、この権限に基づいて本件店舗の営業を行っていたと認められる。そして、本件商標に係る指定商品の品目に照らすと、エービーピー社は、飲食店の名称と同一の標章から成る本件商標につきその指定商品に使用をすることについても、商標権者である原告から通常使用権の許諾を受けていたと解するのが合理的である。これに加え、平成6年7月中に原告がエービーピー社に対し指定商品について本件商標権の通常使用権の許諾を与えたことを内容とする確認書(甲第3号証)の記載を総合すれば、原告のエービーピー社に対する上記通常使用権の許諾を認定するに足りる。
そうすると、エービーピー社が原告から通常使用権を許諾されていることが認められないとする審決の認定(審決書12頁13行目~16行目)は、誤りであるというべきである。
これに対し、被告は、エービーピー社が通常使用権者ではない旨主張し、その根拠として、原告が本件審判においてエービーピー社の通常使用権を立証する証拠を提出することができなかったこと、確認書(甲第3号証)が本件訴訟の第1回口頭弁論期日の直前に作成されたこと、上記通常使用権の許諾について契約書が作成されていないことなどを指摘する。しかしながら、原告は、審判において、既に履歴事項全部証明書(甲第13号証・審判乙第2号証)及び営業許可書(甲第14号証の1・審判乙第3号証の1)を提出しており、これら証拠に照らし、確認書(甲第3号証)の内容が不自然であるとはいえない。また、これら証拠により認められる原告とエービーピー社の営業上の関係に照らすと、本件店舗における飲食店の営業に付随する事項である本件商標権の使用許諾に関し契約書を作成しなかったからといって、あながち不自然なこととはいえない。さらに、原告が確認書(甲第3号証)を作成して通常使用権を証する証拠を追加するということも、本件訴訟の経緯に照らし不自然とはいえず、その作成時期が本件訴訟の第1回口頭弁論期日の直前であることから直ちに、その内容が虚偽であるということもできない。被告の主張は、採用することができない。
(2) 本件商標の使用について
平成6年8月から平成7年2月までの間における本件店舗の売上明細の写し(甲第12号証)には、セットメニューの売上のあったことが記載されているほか、セットメニューの内容として「チキンタラゴンサラダサンド」、「ターキーサンド」及び「ハムサンド」の記載があり、本件店舗のメニュー(甲第17号証)には、セットメニューとして「クロワッサンサンド・セット」及び「フランスパンサンド・セット」が記載されている。また、本件店舗において使用されていた包装容器(甲第19号証の1、平成8年12月3日撮影)、包装用袋(同号証の4、同日撮影)及び包装用手提げ袋(同号証の5)には本件商標が付されているが、これらは、本件店舗内において供されていたのと同様の食品を顧客が持ち帰り用として購入する際に用いられていたものと認められる。これら証拠に加え、サンドイッチが持ち帰り用食品として典型的なものであること、平成6年8月から平成8年までの間、本件店舗においてサンドイッチを購入し、上記包装容器等と同一のものに包装されたサンドイッチを持ち帰り、又は、その配達を受けたとする、当時の本件店舗の複数の顧客が作成した陳述書(甲第22~24号証)を総合すると、本件商標権の通常使用権者であるエービーピー社が、平成6年8月から平成8年までの間、本件店舗において、本件商標に係る指定商品である加工食品に属するサンドイッチの包装等に本件商標を付してその使用をしていた事実を認定することができる。
したがって、本件商標が、予告登録日前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかの者によって、その指定商品についての使用をされていたものと認められない(審決書14頁1行目~4行目)とする審決の認定は、誤りであるといわざるを得ない。
この点について、被告は、上記「セットメニュー」という表現がテイクアウトなどの品目の表記としては極めて異例なものであると主張するが、本件店舗のメニュー(甲第17号証)によれば、本件店舗におけるセットメニューとは、クロワッサンサンド又はフランスパンサンドと飲み物がセットとなったものであったと認められるから、これが持ち帰りの商品として販売されることが異例のことに属するということはできない。また、被告は、エービーピー社によるサンドイッチの販売の事実の反証として、同社が、サンドイッチの製造に利用できる冷凍食品類の輸入の際に、販売用又は営業上使用の目的ではなく試験用であるとして通関を試みたことを主張するが、エービーピー社がこのような通関を試みたことがあったからといって、同社が本件店舗においてサンドイッチを販売していたとの上記認定が左右されるものではない。さらに、被告は、上記包装用袋等の輸入に関して原告の提出した証拠(甲第9~11号証各枝番)の証明力を争うが、原告提出に係る証拠に被告主張のような点があるとしても、前示のとおり、これら証拠の証明力について検討するまでもなく、エービーピー社が本件店舗において包装等に本件商標を付してサンドイッチを販売し、本件商標の使用をしていたとの事実を認定することができるから、被告主張は、この認定を左右するものではない。
2 したがって、原告主張の審決取消事由は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)